研究内容

  • 卒業論文
  • 修士論文

    研究室のミッション

     エネルギー資源を持たない我が国が、文化的で安全な社会を維持していく上で、地球に優しく安定したエネルギー源の確保は不可欠である。地球温暖化による異常気象の顕在化、中国・インドなどの経済発展による石油高騰など、迫りくる課題を最も確実に解決できるエネルギー源は、化学反応の 100 万倍以上ものエネルギー密度を有する核分裂反応を利用する原子力である。一方で、その利用にあたっては、福島第一原子力発電所で事故が生じ近隣地域住民に深刻な被害を与えたことを真摯に反省し、安全思想の上に立って高い安全性と安心感を獲得できる原子力発電所を開発することが何よりも重要である。この観点から、当研究室では、核分裂炉の安全性をより一層高め有効に活用することを目的として、また将来の外惑星探査や海洋開発も視野に入れて、各種の研究を続けている。

    1.原子力発電所の安全性を飛躍的に向上させるための研究

     福島第一原子力発電所の事故では、津波によって全交流電源が喪失したため、核燃料を冷却することが出来ず、核燃料の溶融、原子炉圧力容器・格納容器の破損に至り、大量の放射能が環境に放出された。今後、より有効に、さらに、より安心して原子力エネルギーを利用していくため、当研究室では以下のような原子力発電所の安全性を飛躍的に向上させる研究を行っている。

    フィルタードベント

     まずはフィルタードベント装置に関わる研究について述べる。過酷事故時には原子炉格納容器の内圧が許容範囲を超えて上昇するため、「ベント」により格納容器内を減圧する必要がある。ベントの際に格納容器内の放射能が環境に放出されることを防ぐため、放射能を濾し取るフィルターを設置したベントシステムを「フィルタードベント」と呼ぶ。今後、我が国の原子力発電所にはこの装置の設置が義務付けられることになり、当研究室では、システム内の高温蒸気の挙動や放射能除去性能などを定量的に把握するための実験を行っている。また、この研究は銀ゼオライトの吸着性能実験などを行っている東北大学との共同研究課題でもある。






    コアキャッチャー

      次にコアキャッチャーに関する研究について述べる。原子力発電所の事故時に原子炉炉心に注水ができない場合、核燃料が溶融するおそれがある。このとき、溶融燃料は原子炉圧力容器を貫通し、原子炉格納容器底部に溜まり、格納容器の健全性を損なう可能性がある。現在、福島第一原子力発電所では燃料冷却のために注水した水が汚染水として漏洩し復旧への妨げとなっているが、この問題も溶融炉心により格納容器が損傷したことが原因である。
     圧力容器を突き破った高温の溶融燃料は、格納容器下部のペデスタルに接触する。このペデスタルのコンクリートが溶融燃料と接触することで、コア・コンクリート反応が起こり一酸化炭素や水素などのガスを大量に発生させる。これらのガスは引火および爆燃の危険性があり、事故をさらに深刻なものにしかねない。
     この問題に対して、海外の新しい原子炉ではコアキャッチャーの設置が義務付けられており、国内でも設置が義務化される見方が強まってきている。そこで、当研究室は既設の原子炉に設置できるコアキャッチャーの開発を進めている。コアキャッチャーの部材として求められる仕様は、(1)高融点材料であり、(2)一酸化炭素などの引火性ガスを発生させないことである。したがって、玄武岩や耐火煉瓦、セラミックなどを候補材としてテルミット反応を用いた超高温物体との相互作用に関する実験を行うとともに、FEMによる数値解析を行い最適な材料、寸法、形状を検討している。

    隔離時復水器

      次に隔離時復水器(Isolation Condenser、IC)に関する研究について述べる。IC は、原子炉で発生した蒸気を通した配管をプールに蓄えられた水の中に通すことにより、蒸気を凝縮させ冷却を行う装置である。原子炉圧力容器が加温・加圧状態になると、自動的に蒸気が IC に導入され炉心が冷却されるため、IC は受動的な安全装置と言える。最新の沸騰水型軽水炉には IC とは異なる安全設計思想に基づく装置が導入されているが、多重防護の観点から、我々は最新の原子炉への IC の導入を提案している。この研究では、IC 内の伝熱挙動を把握するため、模擬装置を用いた実験により熱流動データを取得している。また、最新の原子炉に IC を設置することによる安全上のメリットを数値シミュレーションにより実証している。

     また、上記のテーマ以外でも、水位計の事故時健全性維持のための研究や水中に噴出された高圧蒸気の振る舞いを可視化し実験解析を行う基礎熱流動試験研究、噴出災害対策ロボットを用いた研究なども行っている。

    2.惑星間航行用原子力宇宙船の開発

      将来の外惑星である火星への人類の移住を想定した原子力推進宇宙船の開発計画が米国NASAで推進されている。外惑星や太陽系外の深宇宙への航行には、長期に亘る航行を短縮するためにイオンエンジンやプラズマ電磁圧縮推進エンジンを用いて光速に近い速度まで全長約200mの巨大宇宙船を加速する必要がある。本研究では、長期に亘って高い出力を得ることができる液体金属ナトリウム冷却高速炉を高温源とし、24基のスターリングエンジンを作動させて、直径約50mのラジェターパネルから宇宙空間に輻射で排熱する発電システムの成立性検討を行っている。
     現在の検討ではスターリングエンジン実機による出力の向上及び安定性を試みるとともに、本研究室で開発を行っている汎用炉物理解析コードシステムCBZによって核種特性値を計算し、最も経済的かつ安全を担保できる最適な設計を模索している。

    3.原子力発電所の運転制御の安心・安全を支援する研究

      原子力発電所を安全で効率よく運転し制御するためには、原子炉の運転制御上の特性を知り、現在の運転状態を正確に把握する必要がある。この分野の研究では、BWRの一定出力状態の中性子検出器応答に含まれる炉雑音信号から安定性の指標である減幅比を推定する手法の開発や、PWRの減速材温度係数やドップラー係数を動特性同定法によって推定する手法の開発を進めてきた。特にドップラ係数の推定では、世界で初めて商業用発電所のドップラ係数の推定に成功した。 原子炉運転操縦法の高度化研究では、簡便でしかも極めて実用性に富むキセノン振動制御法を提案し、高い評価を受けている。
     現在は、原子力発電所で最も重要なパラメータの一つである中性子の測定データを解析し炉心の流速や出力などとの関係を明らかにすることで原子炉内部の状態を判断できるようなシステムの構築を行っている。中性子の測定をしているLPRMという機器のデータはほとんどが原子炉の出力に関係する情報である。しかしそれ以外にも原子炉内の流速、ボイド率などの重要な情報が含まれていると考えられる。ここから重要なデータを分離・抽出することで、原子炉の自動監視システムを成立させる検討を行っている。
     また、将来のエネルギーを担う原子力分野の研究者や技術者を育成するための教材開発を精力的に進めており、原子力発電プラントの運転シミュレータや臨界実験装置シミュレータの開発を行い、インターネットを通じて公開している。

    4.1原子炉物理シミュレーションに関わる研究

      原子炉内の中性子の振る舞いや核分裂連鎖反応を数値的に模擬するための研究を幅広く行っている。現在は、核燃料の燃焼に関わる複雑な計算モデルを、数学的な手法を駆使することで簡略化する自動アルゴリズムの開発や崩壊熱の不確かさを定量的に評価する手法の検討、燃焼計算における新たな行列指数計算手法の考案、制御棒引き抜け事故時のプラント挙動を核熱結合計算によって把握する検討、トリウム燃料を高速炉で使用した際のシミュレーション計算など幅広いテーマに取り組んでいる。本テーマに関しては、研究室で独自に汎用炉物理解析コード CBZ を開発・改良し、種々の研究に利用している。

    4.2汎用炉物理解析コード CBZ

      汎用炉物理解析コードシステム CBZ は、核分裂物質を含む系の核分裂連鎖反応、核燃料の燃焼、放射線の遮蔽といった、原子炉内とその周囲における中性子、ガンマ線の輸送、それらと原子核、原子との相互作用に関わる物理現象を数値的に模擬するためのコードシステムである。日本原子力研究開発機構で開発されたコードシステム CBG をベースとして、2012 年 4 月より北大・原子炉工学研究室で開発が開始された。
     プログラムはコンピュータ言語 C++で記述されており、原子炉物理の計算に関連する情報(原子炉や燃料集合体を表現するための幾何形状や、原子炉を構成する媒質といったものに加えて、計算手法や収束条件なども含む)は全て C++の「クラス」として定義される。中性子、ガンマ線の輸送方程式、拡散方程式を解くソルバーが複数実装されており、それらソルバーはそれぞれ関連する複数のクラスで構成されている。また、ソルバー間のデータ(例えば中性子反応断面積データ)のやり取りはクラスのインスタンスを通して行われることから、複数のソルバーを組み合わせた多種多様な炉物理計算が容易に実現可能であることが特徴である。

    5.主要研究設備

    高温高圧蒸気水二相流発生装置、バーチャル原子炉シミュレーター、液滴衝撃エロージョン試験装置、宇宙用原子炉発電システム伝熱実験装置、スターリングエンジン(出力3kWe)、フィルタードベント模擬実験装置、アイソレーションコンデンサ模擬実験装置、GPU搭載ワークステーション、

    6.教育

    原子炉工学

    原子炉物理・工学の基礎理論を身につけ、原子炉の基本原理を理解する。原子炉の可能な形式と実例を学び、現在までに建設された原子力発電プラントの特徴とドラブル事例とその対策を理解する。さらに、原子炉の核設計、動特性・制御の概要を学び、PBL演習形式で原子炉の核設計、熱水力設計保全工学基礎実験装置を使った系統機器の運転訓練を行い、地球環境保全とエネルギーセキュリティの観点からCO2を出さない原子力エコ・エネルギー供給システムについての理解を深める。
     PBLのプロジェクト形式で役割分担をして計算し、チームで協力して一つの目標を目指すことの重要さ、楽しさ、設計計算が完了して発表資料が完成したときの達成感を実体験する。この過程で設計目標と目標熱出力、設計仕様の決定、原子炉の臨界寸法、燃焼度とウランの濃縮度、中性子束分布とそれに比例する熱出力分布、熱水力計算、安全系のシステム設計の基礎について学ぶ。


    原子炉物理

    原子炉物理学は、原子炉内の中性子の挙動や核分裂連鎖反応、原子核の壊変・変換などを扱う原子力工学の根幹をなす学問分野であり、原子力工学の技術者にはその知識・センスの習得は必須と言える。本講義では、原子炉物理学の初歩について学び、原子力工学の技術者が保有すべき最低限の原子炉物理学の知識・センスの習得を目的とする。


    原子炉物理特論

    原子炉内の核分裂連鎖反応過程はボルツマン中性子輸送方程式によって数理表現できる。原子炉物理学は、この方程式に対して、様々な核反応現象に対する考察に基づく単純化や近似化手法を巧妙に精緻に適用することで、電子計算機のような有限な演算資源で、工学的に実現可能な原子炉システムを設計するための理論体系である。講義を通じてこの理論体系の概要を学ぶ。
     中性子拡散方程式の導出過程を学ぶことで、原子炉物理学の基礎となっている重要な幾つかの理論骨子を習得する。また、中性子拡散方程式の数値解法を学び、実際に解析コードを自作し、これまでに習得した基礎数値解手法の適用・応用を通して数値解析展開力を養う。


    原子炉工学特論

    現在の発電炉の主流であるPWRとBWRについて原子炉工学を基礎とした実際の炉心管理の要領、技術的根拠並びに核燃料管理について学ぶ。また、炉心管理の上で各種の規制値や、制限値と LOCA/ECCS や異常過渡などの安全解析との関連について理解を深める。
     原子炉の炉心管理、装荷パターン、MOX 燃料配置とプルサーマルについて炉心設計コードを用いて学び、制限値と LOCA/ECCS と安全解析との関連について理解を深める。また、長サイクル運転を可能とする炉心管理とオンラインメンテナンスについて学ぶ。


    地球環境問題と原子力技術・倫理

    21世紀のエネルギー技術は、発展途上国のエネルギー需要の増加、地球温暖化問題および石油資源の枯渇化の課題に対処しなければならない。本講義では、福島第一原発事故の原因究明と教訓、有効な対策と安全性の希求、原子力エネルギーや石油・石炭や天然ガスなどの化石エネルギー、太陽光や風力などの再生エネルギーの長所、短所を上記の視点から系統的に学習し、電気自動車や燃料電池自動車などの最新の話題も含め、21世紀に求められるエネルギー技術と地球環境問題、技術者倫理や政治の役割、報道の在り方や風評被害など原子力に関連する多くの分野を総合的に理解する。
     世界最高水準の安全性をどのように確保するのか、原子力エネルギーや石油・石炭や天然ガスなどの化石エネルギー、太陽光や風力などの再生可能エネルギー、電気自動車や燃料電池自動車など、21世紀に求められるエネルギー技術の長所と技術的課題に関して基礎的・基本的なことをしっかり理解する。これは毎回の理解度テストや講師と学生の対話などを通じて評価・確認し、レポートをまとめる。



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