研究室のミッション
エネルギー資源を持たない我が国が、文化的で安全な社会を維持していく上で、地球に優しく安定したエネルギー源の確保は不可欠である。地球温暖化による異常気象の顕在化、中国・インドなどの経済発展による石油高騰など、迫りくる課題を最も確実に解決できるエネルギー源は、化学反応の 100 万倍以上ものエネルギー密度を有する核分裂反応を利用する原子力である。一方で、その利用にあたっては、福島第一原子力発電所で事故が生じ近隣地域住民に深刻な被害を与えたことを真摯に反省し、安全思想の上に立って高い安全性と安心感を獲得できる原子力発電所を開発することが何よりも重要である。この観点から、当研究室では、核分裂炉の安全性をより一層高め有効に活用することを目的として、また将来の外惑星探査や海洋開発も視野に入れて、各種の研究を続けている。
原子炉物理シミュレーションに関わる研究
原子炉内の中性子の振る舞いや核分裂連鎖反応を数値的に模擬するための研究を幅広く行っている。現在は、核燃料の燃焼に関わる複雑な計算モデルを、数学的な手法を駆使することで簡略化する自動アルゴリズムの開発や崩壊熱の不確かさを定量的に評価する手法の検討、燃焼計算における新たな行列指数計算手法の考案、制御棒引き抜け事故時のプラント挙動を核熱結合計算によって把握する検討、トリウム燃料を高速炉で使用した際のシミュレーション計算など幅広いテーマに取り組んでいる。本テーマに関しては、研究室で独自に汎用炉物理解析コード CBZ を開発・改良し、種々の研究に利用している。
汎用炉物理解析コード CBZ
汎用炉物理解析コードシステム CBZ は、核分裂物質を含む系の核分裂連鎖反応、核燃料の燃焼、放射線の遮蔽といった、原子炉内とその周囲における中性子、ガンマ線の輸送、それらと原子核、原子との相互作用に関わる物理現象を数値的に模擬するためのコードシステムである。日本原子力研究開発機構で開発されたコードシステム CBG をベースとして、2012 年 4 月より北大・原子炉工学研究室で開発が開始された。
プログラムはコンピュータ言語 C++で記述されており、原子炉物理の計算に関連する情報(原子炉や燃料集合体を表現するための幾何形状や、原子炉を構成する媒質といったものに加えて、計算手法や収束条件なども含む)は全て C++の「クラス」として定義される。中性子、ガンマ線の輸送方程式、拡散方程式を解くソルバーが複数実装されており、それらソルバーはそれぞれ関連する複数のクラスで構成されている。また、ソルバー間のデータ(例えば中性子反応断面積データ)のやり取りはクラスのインスタンスを通して行われることから、複数のソルバーを組み合わせた多種多様な炉物理計算が容易に実現可能であることが特徴である。